「人の生活圏に定着」 出没相次ぐクマの研究成果報告 餌は「カキ」依存に?

2024.03.18
地域注目自然

2005-13年の堅果の豊凶状況と、ツキノワグマの出没状況の関係を明らかにする藤木研究員

全国各地でクマの出没や人身被害が相次ぎ、大きな社会問題となる中、兵庫県森林動物研究センター(同県丹波市)が、「野生動物の保全と管理の最前線―兵庫県におけるツキノワグマの保護管理の成果と広域管理」と題したオンラインシンポジウムを開いた。同センターの研究員6人が、それぞれのテーマで研究成果を発表。依存度が増しているカキなどの餌の採食データを示しながら、人里に近付くツキノワグマの生態に迫り、246人が視聴した。

横山真弓研究部長は、今年度と昨年度に位置情報を確認できるGPS首輪を装着したツキノワグマ5頭の行動状況を報告。ある若い雄は標高約500㍍付近のエリアを中心に行動していたが、時には、近くに役場や学校がある国道を横断するケースもあった。別の成獣の雄の、秋、冬の行動エリアは100―300㍍ほどの低標高地点が中心。冬の夜間、市街地からの距離が100㍍以内に近づくことも多かった。近くの木にはカキがなっていたという。

「人の生活圏に近い低い標高エリアは食べ物を得られやすく、一時的に出没しているというよりも、既に定着している環境と考える必要がある」と警鐘を鳴らした。

森光由樹主任研究員は、2020―23年の8月下旬―9月中旬、成獣のツキノワグマ18頭に装着した専用カメラで行動を捉えた。夜間に休息する個体は12頭で、活動する個体は6頭だった。休息場所は、夜間は90%が地上で、昼間は95%が樹上。昼間に樹上にいるのは人など外敵への忌避行動、と推察した。

また、アオハダやミズキといった水分の多い液果の採食が少ない年は、カキの採食の割合が増加。晩秋から初夏にかけてのクマの出没は、液果の結実量に関係があると結論づけた。

藤木大介主任研究員は、餌となる植物の豊凶と、ツキノワグマの出没状況の関係を考察。環境変動をきっかけに生態系が急激に変化する「レジームシフト」を疑い、クマの出没数を予測できる鍵となる植物が、ブナ、コナラ、ミズナラの堅果3種からカキなどの液果に”交代”している仮説を立てた。

堅果の3種同時凶作が大量出没の引き金になることが分かっていたが、13年以降、同時凶作年はない。

低標高の北部エリアに限ると、12年ごろから、クマの出没数と関係があったコナラの豊凶指数の”波”が、何らかの原因で消失。21年から、このエリアのクマが9―11月に食べた物を分析したところ、堅果はほとんど食べておらず、カキなどの液果に依存していることが判明した。

同センターは07年の設立当初から、ツキノワグマの保全と被害防止の両立を目指し、個体数の推定のほか、行動特性や食性の解明、対策の効果的な検証を行っている。

今年度は全国で出没件数が大きく増える中、兵庫県は516件(4―12月)と、前年度(509件、4―12月)並に抑えており、他県に先駆けて取り組んだ管理計画に基づく個体数管理が成果を上げている。

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