午前6時30分、新しい朝が来た―の歌で始まるラジオ体操。夏休みの風物詩というイメージが強いが、兵庫県丹波篠山市にある川北集落(50戸)では12年前から、元日を除く毎朝、集落の公民館の広場で行われている。毎回、60―90歳代の住民が10人近く集まり、爽やかな汗を流して気持ちの良い一日のスタートを切っている。発起人の山本ひでみさん(75)は、「ラジオ体操をしなかったら、その日一日、体がスムーズに動かない。もうすっかり習慣になっている。ここに来ればみんなと顔を合わせておしゃべりもでき、元気になれる」と笑顔を見せる。健康増進だけでなく、住民たちの大切な交流の場にもなっているようだ。
澄んだ空気が気持ち良い早朝、徒歩や自転車で住民らが公民館に集まる。「おはようさん」とあいさつを交わし、世間話に花を咲かせていると、持参した携帯ラジオから親しみのある曲が流れる。それを合図に住民たちは、広場で体操の隊形になってスタンバイ。軽やかなピアノ伴奏に合わせて全身をゆったりと動かした。第2体操までしっかりとこなし、額に汗をにじませた。
息を整えると、全員で円陣を組み、突き出した右腕を円の中央に集めると、日替わり当番が大きな声で発声。この日は、「きょうも一日、熱中症に気を付けて頑張ろう」とコールし、それに続いて全員で腰を落としながら「おーっ」と気合を入れた。
ラジオ体操後に何も用事がない日は、さらに、約30分間の散歩に出かけるという。「みんなで季節の草花を観察しながら歩くので、なかなか前に進みません」と笑う。
元日以外、雨の日も風の日も休まず行っており、天候が悪い日は、公民館隣の農業倉庫の中で実施している。出席カードもこしらえ、自身で出欠を管理。「夏休みに入ると子どもたちも参加してくれるのでにぎやかになる」と目を細め、毎年、8月上旬の旧暦の七夕には、ラジオ体操の前後に、子どもたちと一緒に笹飾りや願い事を書いた短冊を飾り付けるイベントも行っている。
2012年6月初旬、山本さんが所属する同集落の女性グループのメンバー5人と、集落の掲示板の周りを彩る花壇の水やりをしていた際、「運動不足やわ。みんなで毎朝、ラジオ体操せえへん」と提案したところ、5人が「やろう」と二つ返事。こうして軽い気持ちで始まった朝の健康的な習慣は、住民たちの生きがいとなり、今日まで続いている。
これまでほとんど休まず出席しているという95歳になる山本和子さんは、「私が毎朝、みんなの前に顔を出すことが、私の安否確認にもなっているようです」と笑い、「神さん、仏さんを拝み、朝食の準備を済ませてからラジオ体操に行くのが日課。ちょっとしんどいなあという日でも、みんなと一緒に体操するとすきっとした気持ちになれるから不思議。おかげで足腰はまだしっかりしているので毎日、畑仕事もこなし、グラウンドゴルフも楽しめている。この先もずっと続けていきますよ」とほほ笑んだ。
山本章夫自治会長(70)は、「ご近所同士でありながら、出会って話をする機会はそう多くはない。ラジオ体操がそんな住民同士をつなぐ交流の場になっている。ここでは会話の中から自然に悩み事や心配事を聴け、コミュニケーションの場にもなっている」と話している。