本を通じて交流の輪が広がればと、兵庫県丹波市の山南町久下自治振興会(清水邦泰会長)が、JR谷川駅(同町池谷)の待合室に本の貸し出しコーナー「ちーたん文庫」を設置した。地域の女性の発案を丹波市につなぎ、市がJR西日本に掛け合い実現した。有志が寄贈した、あらゆるジャンルの約300冊を棚に並べており、借りるのは無料、返す期限もない緩やかな形でスタート。電車を待つ人だけでなく、誰でも借りることができ、地域の新たな立ち寄りスポットになっている。
絵本や漫画、小説、料理本など、幅広い世代が楽しめる本を置いている。コーナーには誰も常駐せず、貸出用紙に名前(ニックネーム可)と本のタイトルを書いて、備え付けの箱に入れる。
大阪市立図書館に長く勤めた大原隆子さん(61)の発案。司書の大原さんは、25年間ほど谷川駅から電車通勤していた。「通い始めた時、人の行き来は今より多く、乗り継ぎ駅の雰囲気があった。待合室の売店もなくなり、寂しく感じていた」と話す。
以前から、各地の店舗や病院、駅の一角、はたまた個人宅などにも設置されている私設図書館「まちライブラリー」に関心があり、本を通じて人が交流するという考えに魅力を感じていたという。「長くお世話になった谷川駅に設置できれば、多くの人に楽しんでもらえるのでは」と清水会長(71)に相談し、とんとん拍子で話が進んだ。
図書コーナーを管理するのは、大原さんが代表を務めるグループ「ちーたん文庫フレンズ」。設置に向けた活動の中でつながった山南地域の女性6人で、曜日ごとに担当者を決めて本の整理などに励んでいる。
一連の活動に賛同した地域住民が、本棚に看板を取り付けてくれたり、フレンズのメンバーが飾り付けをしたり、植物を置いたりと、ささやかな図書コーナーに彩りがあふれている。
利用した人に感想を書いてもらおうと置いているノートには、「とっても良い雰囲気になった」「懐かしい絵本があってほっこり。30分も過ごしました」「谷川駅で待つのが楽しくなりました」などとあり、本を通じた交流の輪が広がっている。
大原さんは「本があるから谷川駅に行ってみようと、思ってもらえればうれしい。できるだけ長く運営できれば」と笑顔。清水会長は「新たな地域の名所ができた」と喜んでいる。