我流製法で「武将気分」
徳川家康や武田信玄、真田幸村といった戦国武将が着ていた甲冑のレプリカを作る「名人」。自宅に工房を構え、制作歴は約30年に及ぶ。試行錯誤を重ねた「我流」の作り方で、精巧な甲冑を50領ほど制作してきた。「昔のファッション。機械が発達していなかった時代に誰が考えていたのか。身を守るための機能性だけでなく、デザインに個性がある」とその魅力を語る。
制作を始めたきっかけは全国各地の名城を車で巡る旅。飾られている甲冑に目を奪われた。「欲しくなったが、ほんまもんは買われへん。それなら自分で作ってやろうと思って」と笑う。図鑑やインターネットなどの情報から作り方を研究。フードやドラッグを販売する店を営む傍ら、制作に没頭した。
素材は主に塩ビ板。「強度があって曲げやすくないとあかんから」。図面を元にパーツを切り分け、ドリルで穴を開ける。穴の数はなんと9000個。さらに全ての穴にひもを通し、組み合わせる。着物の帯を使って腕部分を作る裁縫や、かぶとの鍬形を成形する彫刻といった作業までこなす。当初は1領作るのに1年を要していたが、現在は3カ月ほどで仕上げる。
完成品は着用できる。兵庫陶芸美術館や、「えべっさん」の総本社で知られる西宮神社などで披露したこともあった。丹波篠山市に寄贈した甲冑は篠山城大書院で並び、観光客から好評。同市展にも出展している。
「『好きこそものの上手なれ』。完成したら感激するし、着れば武将のように『きりっ』と強くなった気分になる」と頬を緩ませる。「せっかく作り方を編み出したのだから、『後継ぎ』も育てたい。無料で弟子入り大歓迎」。82歳。