当たり前にありすぎるけれど、住民が大切にしていきたいもの「世間遺産」―。丹波新聞では、兵庫県丹波地域の人や物、景色など、住民が思う”まちの世間遺産”を連載で紹介していきます。今回は、丹波市市島町鴨庄地区住民が持ち寄ったコシヒカリを使い、同地区の酒蔵・鴨庄酒造(同町上牧)が醸した日本酒「百人一酒」です。
ラベルのデザインも同地区で活動する画家と書家が手がける。同酒造によると、地域ぐるみで造られる酒は全国的にも珍しいという。同地区の魅力が詰まった純米生酒だ。
2004年、全国的に広がったコメの生産過剰の波が同地区にも押し寄せた。地元農家が、酒造りに使うことで消費拡大につなげられないかと同酒造に相談。地域活性化にもなると考え、造り始めた。当初、およそ100人の農家が協力したことから、その名前を冠した。
食用米を酒造りに使うのは至難の業。こうじを造る室内の温度調整や、米の蒸し方などに試行錯誤を重ね、うまみを追求した。同酒蔵5代目の荻野弘之専務(56)は「すっきりとした味わいで、飯米の酒の割には香り華やか。女性にも『おいしい』と言ってもらえる」と話す。
ラベルの文字は書家・栗原周玉さんが揮毫。ポップな七福神のイラストは仏画家の観瀾斎さんが描いた。
毎年、年末になると、その年の新米を使った酒が出来上がる。予約があった地区内の家には住民が配達する。高齢化で栽培農家は30人程度まで減ったが、荻野専務は「顔見知りのつながりがあるからこそできる地元の特産品。もっと広めていきたい」と話す。
一升瓶2600円、四合瓶1300円。