閉店したのに営業中? 気にせず集う常連客 カフェ「高齢者の居場所」「やめないのは詐欺みたい」

2025.02.17
ニュース丹波市地域地域注目

常連客でにぎわう店内。閉店した店には見えない。立って笑っているのが足立勝子さん=兵庫県丹波市青垣町小倉で

勝子さん、店閉めたんと違うん!?
兵庫県丹波市立青垣中学校の向かいに「あった」、高齢者のオアシス「森カフェ」=同市青垣町小倉、昨年12月20日閉店=の駐車場に車がたくさん止まっているのに気がついた。店の照明がついてる。「はて?」と扉を開けると、閉店日に店の玄関で店長の足立勝子さん(80)を囲んで記念写真を撮った常連客たち。あの日と同じように丸テーブルを囲んで談笑していた。

 

森カフェの玄関扉に「閉店いたしました。が」のはり紙。店内に人影が

同町では数少ない、ランチが食べられて、総菜のテイクアウトができ、そして70―80歳代がコーヒーを飲みながらおしゃべりができるたまり場。若い世代から高齢者まで広く愛され10年、「忙しくて疲れた」と、閉店を決めた。

「食事は閉店、喫茶は閉店と違うやんね?」「今日は閉店、明日は開店や」。言葉巧みに閉店を思いとどまらせようとする常連客と店長のせめぎ合いは、最終営業日の閉店時刻まで続いた。記念写真を撮り、「本日閉店です」と書いた紙が扉にはられるのをこの目で見届けた。

20人ほどの常連が入れ替わり立ち替わりやって来る。「閉めたんやけどねぇ。みんな来てんよ。どうしたらいい?」と勝子さん。閉店翌日の21日は法事、翌22日は葬式で、勝子さんは不在。この間も勝手を知る常連客が店でお茶を飲み、茶菓子を食べて過ごしていたという。

閉店後に女性常連客が「完全閉店」させない説得材料を見つけた。「遠くからわざわざぜんざいを食べに来てくれる人がかわいそうやないの」。参加している「丹波大納言小豆ぜんざいフェア」の最中だった。勝子さんの姉、八尾幸子さん(93)が小豆を炊く、熟練おばあちゃんの味が評判で、遠方からのいちげん客が多いのは事実だった。「フェアが終わる2月18日までは開けないと気の毒」と諭され、「閉店している」(勝子さん)けれど、コーヒーとぜんざいの提供を続けることに。

12月20日まで木―日曜の週4日営業だった。「閉店」したことで定休日がなくなり、曜日おかまいなしに常連客が集うように。勝子さんが出かけていると、「早よ帰っておいで」と携帯電話が鳴る。

「きょう初めて来た」という男性客に「“きょうは”、初めてやろ。この人、午前と午後、1日2回来るから」とつっこむ女性客。この男性客、朝にコーヒーを飲みに来て昼に帰宅し、食事を取って午後に店へ戻って来る。

「食事のお客さんが来ると席を譲っていた。今は常連さんばかりやから、長居ができる」と70代の夫婦連れは、「閉店」の恩恵を受け、ゆったり過ごしている。別の70代夫婦は「家ではおばあさんと3人、こたつに入ってじーっとテレビを見ているだけ。ここに来たらいろんな人に会えるのがいい」と値打ちを説く。

八尾さんは「閉店したのに、していないみたい。『昨日は一日、誰とも話さんかった』という人もいる。こういう場所が必要やと思う」と、場を維持する意義を感じている。勝子さんは「手伝ってもらった人とお疲れさん会をしたし、常連さんにはお礼の品を渡したんやけどねぇ。閉店のお花までもらったのにやめないのは詐欺みたい。うーん。どうしたらいい?」と思案を続けている。

「ぜんざいフェアが終わる18日まで開いている、でいいですか」と確認すると、男性常連客が口を挟んだ。「18日まで、を強調したらあかんで。行く所がなくなってしまう」

青垣地域の高齢化率は42%。丹波市内6地域で最も高い。この冬一番の寒気が流れ込んだこの日も、まきストーブで温かい店内は「ひだまり」。誰しも心が温まる居場所がほしい。現状、無理なく続く形に「発展途中」だ。なし崩し的に良い着地点が見つかればと思う。

関連記事