事業譲渡しパン焼き続ける ”縁”が再出発のきっかけに 「愛された店残したい」

2025.04.21
丹波市地域地域注目観光

閉店を取りやめ、丹波でパンを焼き続けることを決意した齋藤店長(中央)。旧知の細見さん(右)が、フォレスト・ドア社の足立代表(左)とつないだ=兵庫県丹波市柏原町柏原で

売り上げ減などを理由に、惜しまれつつも閉店を決めていたパン店「パンの蔵 穂音」(兵庫県丹波市柏原町柏原、齋藤嘉猛店長)が一転、木材の魅力や価値を発信する、フォレスト・ドア社(同市青垣町文室)に事業譲渡し、同社のパン事業として再出発する。今秋、同社の運営施設「FOREST DOOR―旧神楽小学校」(同)に移転する。齋藤店長(44)が製造責任者としてパンを焼き続ける。店名もそのまま。齋藤店長は神戸市内のパン店への就職が決まり、交流サイト(SNS)で3月末閉店の告知を済ませていた。急きょ、丹波市に残る決意をした背景には、丹波市商工会で紡いだ縁があった。

同店は2015年10月オープン。JR柏原駅から柏原高校をつなぐ道に面しており、同校生の来店が多く、珍しいパンの自販機も人気だった。地域住民にも愛され、円柱型の甘い食パンなど30種類ほどの商品が並んでいた。

ここ数年、客数減に伴い売り上げが落ち、閉店を意識するように。店を畳むことを決めてからも、客から「残ってほしい」と惜しまれたが、「このまま続けるのは難しかった」と話す。

そんな折、SNSで閉店の投稿を見たのは細見洋平さん(35)。元市商工会職員で、現在は独立し、経営コンサルタント業「志」(柏原町見長)を運営している。齋藤店長が市商工会青年部員だったことから、以前から旧知の仲だった。

細見さんは、同社に業務委託として経営企画に携わっており同施設の新たなファン獲得を目指していた。穂音に多くのファンがいることや、丹波で積み上げたノウハウを「ゼロ」にするのはもったいないと、齋藤店長に事業譲渡という形でパン製造の継続を打診。齋藤店長も「丹波でパンを焼き続けられるなら」と引き受けた。

齋藤店長は「話を頂いてびっくり。すぐに心が揺らいだ」と笑顔。細見さんは「これだけ愛された店を残すことに価値がある。相乗効果が生まれるのではないか、と考えた。丹波市につなぎ留められて良かった」と話す。

同社代表の足立龍男さん(48)は、「お互いのないところを埋め、経営発展できれば。弊社の事業は森林課題の解決が目的だが、パンを入り口に来場してもらい、地域の活性化になれば」と話している。

現在地で9月まで営業する。開店まで毎週土曜日限定で、「FOREST DOOR」内でパンを販売する。午前11時―午後5時。売り切れ次第終了。

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