当たり前にありすぎるけれど、住民が大切にしていきたいもの「世間遺産」―。丹波新聞では、兵庫県丹波地域の人や物、景色など、住民が思う”まちの世間遺産”を連載で紹介していきます。今回は、兵庫県丹波篠山市県守と垂水の境にある峠道「おに坂」です。
細くて寂しい峠道。昔は民家も少なく、草木が茂り、山賊や追いはぎが住み着いて人々を悩ませていた。村人や行商人らは、「あそこの峠には鬼が出るそうな」などと恐れおののき、いつしかこの峠をこう呼ぶようになった―と民話にもなっている。峠の東側斜面には約35メートルにわたって苔むした石垣が見られ、その中央付近に石垣をくりぬくかっこうで高さ約80センチ、幅約40センチの地蔵が安置されている。今でも県守の住民たちがシキミを供えるなどして大切に祭っている。
京都へ至る播磨街道の一部。自動車1台がやっと通れる道幅だが県道でもある。昔は、もっと曲がりくねった峠だったが、人の往来が増えたため、弘化3年(1846)に大改修が行われた。その工事による犠牲者をなぐさめ、通行の安全を祈願するために地蔵が置かれたそう。
「『北向き地蔵』と呼ばれているが、実際は西を向いている。なんでこの名が付いたのか、はて」と話すのは、おに坂のそばで暮らす山口守さん(86)。「私の田んぼがおに坂を越えた所にある。昭和30年代の頃は、親父と刈り取った稲穂を荷車に乗せ、牛に引かせてこの峠を何度も行き来した」と懐かしみ、「ぶっそうな名前の峠だが、毎日の散歩コース。以前、この近くでクマが出たので、今は鬼よりそっちの方が怖い」。




























