悪魔のささやき

2014.11.01
丹波春秋

 人の心には明と暗、光と影がある。善もあれば、悪もある。作家で、犯罪心理に通じた精神科医、加賀乙彦氏は「私たち人間の心の中には悪魔的なものが確固として存在している」と断言し、「悪魔のささやき」から逃れられる人はいないという(『悪魔のささやき』)。▼悪魔が人の心にささやく。そのささやきを押しつぶす力は、悲しいながら強くない。加賀氏は、その力を「波打ち際につくられた砂の城さながらにもろい」という。高波が押し寄せれば、もろくも崩れ、犯罪に手を染める。事件報道で、容疑者の周囲にいた人がしばしば「まさかあの人が」と驚いているのも不可解なことではない。▼加賀氏は、悪魔のささやきは、気に作用されるともいう。殺伐とした気にふれていると、人の心の奥底にひそむ悪を呼び起こす危険が高まる。気には、社会全体をおおう気のほかに、組織にはびこる気もあるだろう。▼心理学者の河合隼雄氏は「犯罪はその社会の影の部分であり、影の側から見た社会の姿を露呈する働きを持っている」という。犯罪は、社会のありさまを映しだす鏡である。ある組織で逸脱行動が多発するとき、それはその組織の写し絵となる。▼丹波市でまたもや不祥事が起きた。悪魔がささやきやすいような気が組織になかったか、十分に検証してほしい。(Y)

 

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