東日本大震災が起きたとき、「絆」という言葉がクローズアップされた。人と人とのつながりがいかに大切で尊いものか。そのことを痛切に感じ取った私たちは、冷ややかな言い方をすれば、熱病にでも侵されたかのように「絆」を声高に叫んだ。震災から4年近く。絆を叫んだあの時の熱情は今も衰えずにあるだろうか。▼絆を断ち切るものに、「忘れる」がある。忘れるとは、対象に対する関心の喪失を意味する。人であれ、ものであれ、その存在を忘れることは、その事物に対する関心を失うこと。このとき絆は断ち切られる。▼マザーテレサは「愛の反対は憎しみではなく、無関心です」と言った。窮乏にあえいでいる人に対して無関心であることは、そうした人は存在しないことにしていることであり、そこには絆のかけらもない。無関心に通じる「忘れる」という行為の罪深さを思う。▼手前みそだが、弊社の発行した丹波市豪雨災害の記録集が、私どもの予想を超えて売れている。私たちの身近に大変な目に遭われた方々がおられたことを忘れないようにする一助に記録集がなるならば、うれしいかぎりだ。▼忘れていいことは忘れていい。しかし、忘れてはならないこともある。忘れられると、悲しみや孤独にさいなまれる人がいる出来事は決して忘れてはならない。(Y)