丹波市が募集した今年度の「丹(まごころ)の里ありがとう大賞」の入賞入選作を集めたパンフレットを読んだ。その中に心に残る1編があった。青森県の32歳女性が息子におくった「ありがとう」のメッセージだ。▼「ママ、たくさん幸せになってね」と言いながら、小さな息子が四つ葉のクローバーを手渡してくれた。女性は、幼子ながら「幸せ」という言葉を知っていることに感動したという。▼作品はこう続く。「あれから月日は流れ、様々な悲しい事があり、もう息子に会えません。それでも私の心には、あの時の息子の言葉がしっかりと刻まれ、お財布にはクローバーが大事にしまってあります。ママの方こそ、どうもありがとう」。会えなくなった息子。不幸にも亡くなられたのだろう。▼文筆家の相馬御風は、3人の男の子を亡くした。「決して幸福であったと言うことはできまい」という過去を背負いながら、御風は「悲しみは私達の心を浄化する」といい、「悲しみによって浄化され、死によって浄化された超越的心境」を尊んだ。▼先の女性は、とめどない涙を流したことと察する。心もかきむしられたに違いない。しかし作品には、抑制された落ち着きがある。御風の言うように心を浄化されたのだろう。そんな心からつむぎ出された「ありがとう」に感銘する。(Y)