愛用の辞書

2015.07.18
丹波春秋

 仕事柄もあり、国語辞典は必須の書。自宅の机の上にも国語辞典がある。中学校に上がった時、親に買ってもらった辞書で、半世紀近く愛用している。▼辞書を編んでいる金田一秀穂氏が面白いことを書いている。「あ」から始まり、「わ」「ん」で終わる日本語の辞書は、「愛」という言葉から始まり、「腕力」という言葉で終わる。しかも辞書の真ん中にある言葉は、「せ」の「世界」。金田一氏は「世界を中心にして、愛で始まり腕力で終わるのが日本語の辞書です」という(『オツな日本語』)▼冒頭に書いた愛用の辞書には、巻末に年表がついている。その年表にある日本の出来事の最後から2番目が、昭和39年の東京オリンピック開催。東京五輪といえば、一つに「東京五輪音頭」が浮かぶが、作詞者は島根県庁の職員だった。戦時中にフィリピンでの捕虜生活で餓死寸前の苦しみをなめ、「世界平和を願って書いた」という。愛用の辞書は、辞書の構成とは裏腹に世界平和への願いで締めくくられている。▼東京五輪では、女子バレーを金メダルに導いた大松監督の「俺について来い」が流行語になった。安倍首相もこの言葉さながらのリーダーのようで、国民をどこに連れて行くのか。▼辞書はそうであっても、世界も日本も腕力で終わってほしくない。(Y)

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