エストニアの首都タリンで見学した野外劇場「歌の広場」について、「ソ連からの独立前の1988年、30万人が集まって歌いながらの革命の端緒となった」と書いた(8月6日号本欄)。写真家の大石芳野さんに送信したら、「当時、その広場で大合唱を聴きました」と返事を頂いた。▼彼女の写真集「ソビエト遍歴」(日本放送出版協会)には、90年に「民族の祭典」が開かれた時の「歌の広場」が載っていて、舞台に3万3千人が並び、客席で民族衣装の女性達が踊りまくる光景は壮観だ。独立の1年前。▼森と湖の平坦で肥沃な地、そしてバルト海に面した良港を持つ沿岸3国は、ロシアとドイツの綱引き場のような恰好で支配を受け続け、第1次大戦後にそれぞれ独立を果たしたものの、間もなくソ連、そしてナチスドイツ、また再びソ連に占領された。▼再独立した今はEUとNATOに加盟、完全に西側の一員となったが、特にラトビアにはソ連時代に移住してきた、帰化しない限り国籍を持てないロシア系住民も多く、なお緊張を抱えている。▼同国で開かれた加藤登紀子コンサート会場で、現地の若い女性の3人組が「とても感動した」と、にこやかに口を揃えた。うち1人はロシアから来たとのこと。平和は、やはり民衆同士の力によってこそ支えられるだろう。(E)