2016.06.04
丹波春秋

 修道院の建物の壁にハエのようにとまっていたと、作家の曽野綾子氏が本に書いている。ハエの正体は蛍。その数は百匹や二百匹どころではなかった。夜、道を歩くときは、蛍の波をかき分けるように歩くのだという。場所はアフリカのカメルーンの奥地。▼数え切れない蛍の群れに出会った衝撃から、曽野氏は「たぶん蛍は徹底して人間の文明を嫌っているのだろう」と書いた。文明が高度化すれば、反比例して蛍が姿を消す。「文明の恩恵に浴しながら蛍を見ることは、どだい無理」とした。▼確かにそうだろうが、幸いなことに丹波では身近に蛍が見られる。無数とはいかなくても、今の時期になると、蛍が現れてくれる。人間の文明は嫌っても、丹波の自然環境は好いているようだ。▼曽野氏の先の本は金美齢氏との対談集で、金氏は「数年前、蛍を求めて一泊旅行をした」と述べている。身近に蛍が見られる環境におられないのだろう。蛍を見るためにわざわざ一泊旅行をしたり、遠出しなければならない所なんて、そもそも人が暮らす環境なのかと思う。人も蛍と同様に自然界の一員なのだから。▼我が家の後ろを流れる川はコンクリート3面張りだが、それでも蛍が出る。家を一歩出れば蛍に出会え、季節の変化を感じられる。人間らしい環境だとつくづく思う。(Y)

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