勝海舟がなじみの料理屋に立ち寄った。店の者が忙しそうに立ち働いており、景気がいいように見えたが、女将に聞くと、まったく違った。店のお金は底をつき、主人はお金の算段のために外出していた。▼女将によると、苦しい内情だが、あえて平気をよそおい、店内を活気づけているとのこと。店の空気が沈んでいると、客足が遠のく。店の「気」を明るく、活発にしているとやがて売り上げが好転するのだという。後日、海舟がその店を訪ねると、女将の言った通り、店は繁盛していた。店は、苦境にあっても前向きだった。▼海舟はよく「経済が基本だ」と言った。歴史上の人物を評価する際も、経済をわきまえていたかどうかを基準にした。経済とは「経世済民」の略なのだから、当然と言えば当然のこと。経世済民とは、世の中を治め、人民を救うことであり、経済はまさに政治の要だ。▼参院選の取材で出会った企業経営者が、「どの党が政権をとろうと、国の政策には期待できない」と話していた。民を救うことを字義とする「経済」政策に期待できない現実がある。▼企業経営者は「政策よりも、企業としていかに努力するかだ」とも言った。苦しくても前向きだった、海舟なじみの料理屋も自力で這い上がった。海舟の時代も現代も変わらない。(Y)