岩手県への大震災被災地ツアーの際、大船渡市郊外の海岸のホテルに泊まった。翌朝、岸壁の辺りを散歩していたら、舟で作業している漁師さんから手招きされた。「何だろう」と近づくと、「ちょっと手伝ってくれや」。▼船底の水槽にいるアイナメを網ですくい上げて、横付けしている軽トラックのタンクに移したいので、網を受け取ってまた戻してほしいという。簡単な作業で、5、6回もすると全部のアイナメを移し終えた。▼「やぁ、ちょうどよかった、助かったよ」と、漁師さんは大喜び。お礼にと、ぴんぴんしているのを3匹、「これ、持って帰れ」とビニール袋に入れてくれた。「あぁ、これも食うか」と別のタンクにあったホヤも。▼津波が来た時は目の前の20はありそうな丘の上まで達したこと、舟を放り出して一目散に逃げたことなどを話して、軽トラは魚市場の方へ走り去った。ホテルに戻ってさばいてもらったアイナメはプリプリしていた。久々の“肉体労働”でバイト賃を稼ぎ、「早起きは三文の得」の気分。▼噛みながら数年前、宮城県気仙沼市の大島という島で、船着き場近くを歩いていた時も、ワカメを干していた漁師さんが「どこから来た?これ食ってみるか」と、ちぎって渡してくれたことを思い出した。東北の人たちは哀しみ苦しみを乗り越えて明るく生きている。(E)