郵便局に行くと「年賀状印刷承ります」と書かれたのぼりが立っていた。夏が去ったばかりなのに、もうはや年賀状。徒然草の一節を思い出した。「春暮れてのち夏になり夏果てて秋の来るにはあらず」。▼春が終わって夏が来るのではない。春の中に「夏の気」のようなものがあり、その気が満ちていつの間にか夏になる。そのように季節は移り変わるという。この兼好の説に従うなら、年賀状印刷のPRが始まったとしても不思議でないが、気ぜわしい思いはする。▼弊社でも、正月号の企画について検討を始める時季になった。これまた気ぜわしいかぎりだが、仕事というのは元来、慌ただしいものなのだろう。「business(ビジネス)」とは「busy―ness」であり、忙しく、慌ただしいのが仕事の定めなのだ。▼季節を先取りして、ばたばたとする。兼好に言わせるなら「走りて忙わしく」という、嘆かわしいあり方だろうが、「走りて忙わしい」のは定めと割り切って仕事に臨むしかない。▼とはいえ、忙しさに追われて心の余裕まで失いたくない。「人間だけがいかにテンポが速くなっても、太陽のテンポはいささかも変わらない。地球は依然として悠々と回転している」(相馬御風)。今は秋。仕事では先をにらみつつも、心は、好季節の秋に遊ばせたい。(Y)