読書週間

2016.10.31
丹波春秋

 精神科医の香山リカ氏は、雑誌の編集者から聞いた話に唖然とした。「昔は、人がひと息に読めるのは800字と言われたけれど、今は“ひと息は200字”が常識。それ以上長くなると、読者から『読みにくい』『何を言っているか、わからない』というクレームが来る」。▼編集者は、読者は簡単で短い文章を望むようになったと言う。それはなぜか。香山氏は「日本語を読んだり書いたりする力が著しく低下している」からだと考える。出版危機と言われる昨今だが、その背景には読者の読解力の低下があるということだろう。▼思想家の内田樹氏は、出版危機について別の見方をする。出版危機の本質的な原因は、出版社の側にあるという。「読者はできるだけ知的負荷の少ないものを求めている」という、読者を見下した設定が出版危機を招いているというのだ。▼香山氏と内田氏の見方のどちらにも賛同する。読者、出版社のいずれにも問題があり、それがからみあった結果が今の出版危機なのだろう。▼「電車などに乗ると、あっちにもこっちにも小説や雑誌をひろげている人が目につく」。国語学者の金田一春彦氏が昭和40年に書いた一文だ。さて、今の車内の風景はどうか。日本人は読書に熱心だとしたこの雑文の題名は、今まさにそうである「読書週間」。(Y)

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