「世界病むを語りつゝ林檎裸となる」という中村草田男の句を、俳句をたしなむ先輩から教わった。各節字余りで読みにくい。1930年代、第2次世界大戦が迫りくる時代の空気を漂わせる。▼米大統領選でトランプ勝利の報に、筆者もヒトラーを思い浮かべた。ナチスは選挙で合法的に勝って政権を獲得した。第1次大戦後の疲弊したドイツ、くたびれた国民の心情に乗じて。▼ただ、2人の資質はかなり違う。ヒトラーはかつて貧乏な画学生。しかし偏執質で、天才的な着想力、行動力を持っていた。裕福な家に育ったトランプはビジネスを成功させる合理性を備え、利害得失に敏いが、単純。似ていそうなのは、思い込んだらぐいぐい押してくるところだ。▼安倍首相が「信頼できる指導者と確信した」と話したのは、それこそ外交辞令だろうが、ロシアのプーチン同様に手ごわい相手だ。▼第2次大戦後、70年以上経った。組み直された世界秩序がそこここで綻びを見せてきた21世紀初頭。今の様相は、歴史が繰り返す気配すら感じさせる。「強いアメリカ」、「強いロシア」、「強い中国」。そして欧州でも日本でもそんな声が沸き上がれば、行き着く先は目に見える。林檎をかじりながら語り合う時、人々は裸になった地球まで想像してはいまい。(E)