35年ほど前、「クリスタル族」という流行語が生まれた。当時、話題を呼んだ田中康夫氏の小説『なんとなくクリスタル』がその言葉を生み出した。ブランド物にうつつを抜かす若者たちをクリスタル族と呼んだ。▼流行語の多くがそうであるように、クリスタル族は死語になった。現代の若者は、車離れに表れているように所有欲が薄らいでいると言われる。時の流れを思う。▼ブランドで身を固め、至福を味わえたのは、背景に経済の拡張があったからだ。その後、経済が失速。資本主義の崩壊さえささやかれる時代になった。経済格差が拡大し、非正規雇用の増大やブラック企業など就労環境が悪化、環境破壊や、年金制度の劣化などが進んだ。若者の所有欲が薄らぐのも、閉塞した時代の反映だろう。▼『デフレの正体』などの著書がある藻谷浩介氏は、大学を出て大企業に入り自分を消費するよりも、田舎に住み年収200万円ぐらいで農業をする方が幸せであり、二人の息子にはそんな人生を送ってほしいと望むという(『地方消滅』)。この言葉に見られるように価値観にも変化の兆しがある。▼明日は今日よりも良くなるという希望が持てない現代。そんな時代に今の若者は置かれている。しなやかに、たくましく生きてほしい。明日9日は「成人の日」。(Y)