アラン・ドロンがあと1本だけ映画に出て引退するそうだ。高校生の時、友達に誘われ学校をさぼって福知山の映画館へ「太陽がいっぱい」を観に行った。「フランス映画ちゅうて、こない面白いんか」と初めて知った。▼完全犯罪で意気揚々と入港するヨットの後ろに、ロープに引っ掛かった死体の包み。そこへテーマ音楽が静かに流れる。何もかもがかっこよかった。その後も、リノ・ヴァンチュラと組んだ「冒険者たち」、チャールズ・ブロンソンとの「さらば友よ」など、潔くも哀しみを帯びた作品が胸に残る。▼実生活では感化院での少年時代。志願しての戦闘体験。数々の女性遍歴と、スター中のスターの逸話に満ちている。反抗的な意思を秘めた超美男には、男でも反発しながら惹き込まれたのではないか。▼若い時のイメージが強すぎ、中年以後は目を引く作品はあまりなかった。80歳を過ぎた近影は、さすがに老醜の影を拭えない。最後の作品は老いらくの恋の話といい、「髪結いの亭主」のパトリス・ルコント監督。相手役は「イングリッシュ・ペイシェント」のジュリエット・ビノシュ。▼「髪結いの亭主」はやや退廃的ながら珠玉の作品。知的で意志の強い従軍看護師を演じたビノシュは、どんな中年女性になっているか。ドロン最終作は絶対に見逃せない。(E)