「うーん、難しい」。小学生の算数の問題にうなってしまった。篠山市で先ごろ行われた「学びフェスタ」に参加した丹波地域の小学生が挑んだ問題に、当方も挑んでみたのだが、手も足も出ない難問があった。
小学校を卒業し50年近い。もともと算数は苦手だったが、その頃なら、これほど苦にしなかっただろうか。
かつて「分数のできない大学生」という言葉が話題になった。しかし劇作家の平田オリザ氏はこの表現は適切ではないとする。正しく言うなら、「分数を忘れてしまった大学生」というのだ。確かにそうだろう。本当に分数ができなかったら、進学するのは難しいに違いない。
名文で知られる随筆家、内田百(ひゃっけん)が大学でドイツ語を教えていたときの話。学生が「覚える先から、みんな忘れてしまいます」とこぼした。それに対して百は「知らないと忘れたとは違う。忘れるには学問をしなければならない。忘れた後に本当の学問の効果が残る」と応じた。
忘れることなんか苦にしないでいい。そもそも生まれたときから、今に至るまでのことをみんな覚えていたら頭がおかしくなると百はいう。
勇気づけられる教えだ。算数の問題にお手上げになったのは、できないのではなく、解き方を忘れたからであり、落ち込む必要はないと自らを慰めた。(Y)