濃密な生の時間

2018.12.23
丹波春秋

 「来てみればさほどでもなし白寿かな」という句がある。99年もの年月を生きても、来し方を「さほどでもなし」と言ってのける。心憎いほどの軽妙さだ。

 私事だが今年、還暦を迎えた。白寿に比べると、還暦なんぞは青二才に過ぎない。とりたてて思うところはなかったのだが、先ごろ、還暦を過ぎてそれほど年数のない知人がなくなった。これには我が身の肉体に積み重なった年齢を顧みざるを得なかった。眼前にちらりと死が姿を現した。

 作家で精神科医でもある加賀乙彦氏は若い頃、刑務所や拘置所で死刑囚と無期囚の精神状態や行動などを調査研究した。死刑の宣告を受け、明日にも刑が執行されるかもしれない死刑囚と、刑務所に監禁され続ける無期囚。両者には明らかな違いが見られた。

 退屈で単調な日々を過ごす無期囚は、ぼんやりした鈍感な子どものような印象を受けるのに対して、死刑囚は忙しく日々を過ごしていた。まるで生のエネルギーを発散させているかのようだった。生きられる時間が限られた死刑囚は、「濃密な生の時間」を生きていた。

 まだまだ若い人の死に出合うと、生が有限であることを思い知る。親しい人であれば、その思いはいっそう強い。濃密な生の時間を生きねばと思う。もうすぐ年が明ける。またひとつ年齢を重ねる。(Y)

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