新潟の冬は油断できない。たまさか晴れているので洗濯物を干しておいたら、急に天気が崩れて台なしに、という目に何度か会った。▼2冬過ごした間に、「北越雪譜」という書のことを知った。塩沢の縮織り商人、鈴木牧之(ぼくし)が見聞した雪国の様々な話が集められている。自ら描いた雪の結晶や雪中用具の絵は非常にリアルだ。天保年間に江戸で出版されベストセラーになった。今はワイド版岩波文庫に収録されている。▼「吹雪」。雪が降り止み天気が穏やかになった日に、仲の良い百姓夫婦が初めて授かった赤子と一緒に妻の里を訪ねての帰路、天気が急変する。翌朝、村人たちが赤子の泣き声のする場所を掘り起こしたら、「夫婦手を引あいて死居たり。児は母の懐にあり、母の袖児の頭を覆ひたれば児は身に雪をば触れざるゆゑにや凍え死なず」。▼ほかにも、雪道を踏み外して谷底に落ち、熊が越冬する穴に迷い込んだが思いのほか友好的で、蟻を食べさせてくれて生き延びた話、またこれは天然ガスの噴出と思われるが、雪の地中で燃えている火の話など興味は尽きない。▼とは言え、牧之は書いている。「越後のごとく年毎に幾丈の雪を視ば何の楽しき事かあらん。雪の為に力を尽し財を費やし千辛万苦する事、下に説く所を視ておもひはかるべし」。今も本当にその通りだ。(E)