篠山市を取材エリアとして担当していたころ、冬場の天気に気をもんだ。鐘ヶ坂峠を通らねばならず、雪が大敵だったからだ。峠に車がずらりと停滞し、難渋したことが幾度かあった。雪のときばかりは、篠山との距離がとても長く感じられた。▼距離には2種類ある。物理的距離と心理的距離だ。たとえば、丹波地方に住む私たちが感じる阪神間との距離と、これまで一度も丹波に来たことがない阪神間の人が感じる丹波との距離ははたして同じだろうか。丹波を山奥とイメージしている人は、丹波を遠くに感じるに違いない。▼物理的距離は同じでも、立場によって心理的距離は異なる。鐘ヶ坂峠は、そんな心理的距離に影響を与える交通難所だった。丹波市と篠山市は隣接した地域でありながら急峻な鐘ヶ坂峠に阻まれていたように思う。▼丹波の森公苑の前身、県立丹波文化会館が1970年に開館したとき、掲げたテーマの一つが「丹波はひとつか」だった。氷上と多紀は同じ地域かをめぐって激論が交わされた。このテーマ自体が、両市間の心理的距離の長さを物語っている。▼3代目の新鐘ヶ坂トンネルが27日に開通する。心理的距離が短縮されるように思う。同じ丹波地方ながら呉越同舟のような向きを感じることがある両市だが、絆が強まることを期待したい。(Y)