北朝鮮に拉致され帰還した曽我ひとみさんの夫、ジェンキンスさんに米軍法会議が脱走の罪で30日の禁固刑を下してまる1年。近著「告白」(角川書店刊)を読んだ。40年間北朝鮮に拘束され、意志に反して宣伝映画にまで出演させられていたという記述は、真実と思える。▼同国は経済的に窮乏し、圧政のもと、道義もすさんで今や兵士でさえ泥棒や物乞いまでしなければならないほどの飢餓状態だそうだが、抑えた筆致で客観的に書かれている。▼ひとみさんが一人先に帰った日本へ家族3人が合流することについては、長女の美花さんが強く抵抗していた。しかし娘らを北朝鮮に残せば工作員への道を歩むしかないことがよくわかっていたので、自分が米軍の裁判にかけられることを覚悟したという。▼その娘らも、家族で話し合うために用意されたジャカルタのホテルで、鮮やかな色のいくつもチャンネルのあるテレビを見て、「外の世界には北朝鮮で聞いていたより実にさまざまなことがある」と気づき始めた。▼拉致は日本ばかりでなく東南アジア、中東やヨーロッパなどの様々な国の人に対しても行われたのは間違いないという。「日本以外の国はどうして自国民を奪還しようとしないのか」。日本が各国と連携し、国際的な世論をバックに追及すべき問題だと改めて認識させられた。(E)