「治す」「支える」融合へ 医療崩壊から10年、統合新病院発足 新しい地域医療の船出(上)
兵庫県丹波市の同県立柏原病院と柏原赤十字病院の統合を受け、1日に開院したばかりの同県立丹波医療センター。6月15日に行われた見学会で、県立柏原の内科患者の女性(77)は、病院ロビー近くに掲示されている各診療科の担当医師の表を指でなぞり主治医の名前を見つけた。「また、こっちでも世話にならんといかん」。友人と顔を見合わせた。
「医療崩壊」後の2008年、一時期18人まで減った常勤医師は、V字回復。今年7月1日の開院時、50人の大台に乗った。県立時代を含めて最多。08年にゼロだった初期研修医(1、2年目)も過去最多の17人(1人は神戸大から)にまで増えた。
医療センターの常勤医師の供給源は3つ。最大の供給源は、従来からの神戸大学からの医局派遣。8割ほどを依存しており、大学医局人事抜きでは成り立たない状況に変わりはない。医療センター開院の今年度一気に10人以上増えたのも、主に医局人事による。
市民の期待が大きい脳神経外科では常勤医師の招へいは実現していないものの、兵庫医科大学の医局から週3日の外来派遣を受け、新たな関係を築こうと模索している。
もう1つの供給源が、県。県が学費などを負担する代わりに9年間の義務年限を課す県養成医師が5人勤務している。全員が医師免許取得後、3―6年目の若手だ。うち4人が病院の柱の内科で、土台を支えている。
「県養成医師の育成拠点に」
数年前まで養成医師の派遣は但馬に厚く、丹波は冷遇されていた。赴任前に井戸敏三県知事に、「兵庫県養成医師の育成拠点にしたい」と直談判し、支援を取り付けた秋田穂束院長の着任(13年4月)後、安定的に派遣されるようになった。県養成医師出身の見坂恒明・神戸大特命教授が、院内の「地域医療教育センター長」として教育を担当している点が、派遣される養成医師の安心につながっている。
医療センターに隣接する丹波市の診療所「ミルネ」は主に、養成医師が担当する。4月から赴任した井崎真理医師(内科)もその1人。「多様な症例が診られるので勉強になる。教育が充実しており、研修医も優秀」と、好印象を持っている。
大学や県のひも付きでなく、自身の考えで就職した医師も数人あり、神戸大学依存100%だった「崩壊前」と比べ、多様性が生まれている。
「崩壊前」水準に戻らぬ外科系
医師数回復の端緒となった、今も続く、県市が費用負担し神戸大学と県立柏原で医師を育成する「循環型人材育成プログラム」で、09年に赴任した河崎悟内科部長は、自身が再開させた循環器内科の24時間365日の救急受け入れの継続に心を砕く。現在のチームは7人。「当番制で個々の負担を軽くし、以前のように医師の退職で診療体制が崩壊することがないよう留意している」と言う。
18人を数える内科を除けば、各科1―6人。外科系は「崩壊前」の人数に戻っていない。他病院と比べ多い訳でもない。大学、県と連携しさらに医師を招へいし、診療を充実させていく。