技の熟成

2007.11.05
丹波春秋

 彫刻家で3代目柏里の磯尾隆司さんが日展で2度目の特選に選ばれ、日展の委嘱作家になった。磯尾さんが大学を卒業し帰郷したばかりのころから、仕事を越えたお付き合いをさせてもらっている者として、うれしいかぎりだ。▼今回の作品「明日へ」は、磯尾さんの中学3年生の長男がモデルだ。子どもから大人の体へと変わりつつある少年期の初々しい筋肉美を表現した。タイトルの通り、未来に向かって飛翔しようとする清新な力が感じられる。▼磯尾さんが日展で初めて入選した作品は「スポーツシャツの娘」。はちきれんばかりの若々しさが前面に出ていた。今回の作品は、初入選作と同じく「若さ」を題材にしながらも、作品の持つ深みや精神性は格段に増している。初入選は24歳のとき。今は48歳。この間の歳月に、技が確実に熟成されたように思う。▼磯尾さんの祖父、初代柏里が中央の彫刻界で評価されたのは、60歳を過ぎてからだった。彫り物師になるのに回り道をしたせいもあるが、それ相応の歳月があってはじめて技が完成した。▼熟成するには時間が伴う。一足飛びに熟成の域に達することはありえない。これは彫刻の技だけにとどまらないだろう。若くあることを称賛する現代だが、熟成を思えば、年を重ねることも、さらには老いることも悪くない。(Y)

関連記事