兵庫県丹波市春日町の松岡秀美さん(69)が10年ほど前から、自宅横の畑に設置した大型水槽で錦鯉を繁殖させ、同市内の小学校や寺院、個人などに譲り渡している。これまで育てたのは100匹以上を数え、城崎温泉(同県豊岡市)の有名旅館に自慢の鯉を「嫁入り」させたことも。高校の元体育教師の松岡さんは、「鯉を育てるのは教育と似ている部分がある」と笑顔を見せ、「屋外で飼育する場合、過保護にせず根気が必要。そして生まれる喜び、育っていく楽しさがある」と話している。
縦2・8メートル、横1・5メートル、深さ80センチほどの水槽で、すだれの屋根をつけて適度な光を入れながら飼育。同県養父市の専門業者に指南を受けて設置した装置で水をろ過・循環させると共に、計4個所からエアレーションで酸素を送っている。現在は15センチほどの3匹と、30センチほどの1匹が悠々と泳いでいる。
これまで何度も繁殖に成功し、地元の小学校などに鯉を寄贈。3年前には、専門業者の紹介で、小説家の志賀直哉が投宿したことでも知られる城崎温泉の旅館「三木屋」が、松岡さんが育てた50センチほどの5匹を購入した。
退職後、趣味の一つにと川魚を屋内の水槽で飼い始めた。その後、家の中が華やかになればと錦鯉の飼育を始め、成長に合わせて水槽を大きくした。広い場所で泳がせてやりたいと、屋外に大型水槽を据え付けた。
悲しい出来事もあった。昨年、水槽を掃除した際、あわただしさもあって循環装置を正しく設置できていなかったことに気づかず、ほとんどの水が抜けてしまった。手塩にかけた50匹以上が死に、中には飼育を始めた時から育てていたドイツ鯉もいたという。「大ショックだった」と語り、畑に埋葬して供養した。
「でも、やっぱり好きだから」と今月から飼育を再開した。
長く飼うコツは「水」。地下からくみ上げた水を使用し、透明度を求めないことという。「人間と同じで、誰かにずっと見られているとストレスがたまる」と話す。また、動きの鈍る冬場は臓器に負担をかけないため、11―3月は餌を一切与えないという。
夢は田んぼを池にし、自慢の鯉を泳がせること。「楽しみながら育てるのが何より。人に慣れてくると、水面に指を入れると寄ってくるのがかわいい。いろんな人に見てもらえるようにしたい」と話している。