「名を惜しむ」

2007.12.17
丹波春秋

 「名を惜しむ」。これは、かつて武士の倫理体系で重要な位置を占めていた。名前や名声が汚れるのは耐えられないことであり、命よりも名を惜しんだ。もし家名に傷をつければ、家名断絶となり、子孫までが路頭に迷う。逆に、家名の威厳を保てば、子孫には豊かな暮らしが保証された。▼子孫に残す遺産でもあった「名」だが、今では死語になったようだ。名に代わって出てきたひとつが「ブランド」。しかし、ブランドには、名のような行動規範のイメージは薄い。▼名を惜しむからこそ、恥ずかしいことはできないと自らを律したのに比べて、ブランド戦略などの言葉があるブランドには、その効果を利用しようという計算が見え隠れするときがある。名は道に通じるが、ブランドはときに利に傾く。▼今年、名のある企業の偽装事件が相次いだ。名を惜しむという行動規範があれば、ありえない事件だ。世間から認められた企業の名称を「名」としてあがめずに、ブランドとして利用する下心があったから招いた不始末だったのではないか。▼偽装事件を反映し、今年の世相をあらわす漢字に「偽」が選ばれた。偽は「人が為す」と書く。人の世には、偽がつきものなのかもしれない。だからこそ、名を惜しむなどの倫理が求められるのだが、地に落ちたままでは来年もあやうい。  (Y)

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