わずらわしいケータイ

2008.04.21
丹波春秋

 関西学院大学の山岳部に所属し、ヒマラヤ山脈の未踏峰ディンジュンリ(6196メートル)の登頂に成功した丹波市出身の山本大貴(ひろき)さんに出会った。山の魅力について話が及んだとき、「下界のわずらわしさから解放されることが一つ」と話した。▼わずらわしさとは、「メールがあるとすぐに返事をしないといけない。ケータイが鳴ると出ないといけない」こと。山では緊急の場合などを除いてケータイを使わないため、「心がのびのびする」と言う。ケータイ・メール世代の若者に似合わない弁に新鮮さを覚えた。▼ある大学の夏期留学での話。留学中、学生たちはケータイの使用が禁止された。当初は不自由を感じ、不安感や焦燥感すら抱いた学生たちだが、2週間ほどして落ち着いた。そのうちに物事を自分でゆっくり考えるようになったという。▼この変化は、ケータイで他人と絶えずつながっている関係が断ち切られ、個に立ち返ったために起きたのだろう。ケータイでつながる関係は、いわば冗舌の世界だが、自分ひとりは沈黙の世界。物事をじっくり考えるには、うるさい環境は適さず、静かな環境に身を置くのがいい。▼現代人に必要なのは、こうした沈黙の世界だと思うのだが、山に登らないと手に入れられない時代になったとすれば、困ったものだ。(Y)

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