学生時代に聴力を失った30歳代の女性。耳が不自由になってから、それまで聞こえなかった音が聞こえるようになった。それは星の音だ―。そんな話を、NHKアナウンサーの村上信夫さんが講演で語っていた(本紙6面掲載)。▼常識では聞こえない星の音がなぜ聞こえるのか。そのヒントは、星野富弘さんの随筆「鈴の鳴る道」にあるように思う。星野さんは、不慮の事故で手足の自由を失ってから口に筆をくわえて詩画を描き始めた人だ。▼車いすの星野さんにとって、でこぼこ道は苦痛でしかなかった。しかし、車いすに小さな鈴をつけてから、でこぼこ道を通るのが楽しみになった。鈴が、澄んだ音色をたてるのだ。▼星野さんはこう思った。「人はみな、この鈴のようなものを心の中に授かっている」。その鈴は、平らな道では鳴らない。人生のでこぼこ道にさしかかったときに揺れて鳴る。しかも、その心の鈴は、心の奥深くに押さえ込んでいては聞こえない。▼先の女性は人生のでこぼこ道を歩んだ。その悲しみを突き抜けたたくましさと明るさがあった。だからこそ、星の音が聞こえたのではないか。それは心に授かった鈴の音かもしれない。人生のでこぼこ道は、体の障害だけではなく、ほかにも色々ある。はたしてその時、自分は星の音を聞くだろうか。 (Y)