帰省悩む親子 自費PCRが「条件」も コロナ禍中の年末年始 「正月くらい実家で」「近所の目気になる」

2020.12.24
地域

帰省した孫と久しぶりのふれあいを楽しむ祖父=2020年12月21日午後3時45分、兵庫県丹波地域で

年末を迎え、いつもなら都市部に出ている子どもや孫たちが帰省し始める時期になるが、今年は新型コロナウイルス禍の最中。帰省しない人も多く、受け入れる側になる兵庫県丹波地域(丹波市、丹波篠山市)では、「子や孫と年に1度、ゆっくり過ごせる時間だったのに」と悲しむ声が聞こえる。一方、「正月ぐらい実家でリフレッシュしたい」と帰省する子も。親は、「久しぶりに会えるのはうれしい」と喜びつつ、「コロナまで持って帰ってきたらどうしよう」とおびえたり、「近所の目も気になる」と不安がる。コロナ禍中の年末に揺れる親子の思いを探った。

◆レンタカー帰省 「家族に会え最高」

「コロナ以降、子どもがおじいちゃん、おばあちゃんと会っていない。一番かわいい時を見てもらいたいという思いが一番強かったですね」

混雑する時期を避け、すでに関東から丹波地域の実家に家族で帰省した男性(33)が話す。直前まで今年の帰省はあきらめていたが、「レンタカーで帰る」というアイデアを思いついた。「新幹線や都心部を避けたということが大義名分になりました」と話す。

感染拡大以降、夫婦ともに自宅でのリモートワークが基本。外を出歩いたり、電車に乗ったりする機会もほとんどなくなったため、感染リスクも少ないと考えた。

今年に入ってからシーズンごとに帰省や親の上京を計画しては白紙に。「なんとかして帰りたかった」という。久しぶりの実家生活には、「ゆっくりできるし、子どもたちが家族に会えて最高です」と喜んでいる。

◆リスク考え、祖父母には会わない

東京のコンサルティング会社に勤める男性(31)も、29日から来年1月3日まで帰省する予定という。3―7月にかけてはリモートワークが多かったが、現在は普段通りに出社している。

「5月ごろは、通勤時間帯の電車もガラガラだったけれど、今はもう座れないレベル」と言い、「コロナに対する雰囲気は少し緩くなってきている。これだけ感染者の数が増えている中なので、正直、『なっても仕方がないかな』という感じはある」と話す。

帰省については「もともと田舎の人間なので、人が多い東京にいると息苦しい。せめて正月ぐらいはリフレッシュしたい」と言う。ただ「お年寄りへの感染が一番怖い」と、万が一のリスクを考え、祖父や祖母に会うことは控えるという。

◆家族や周りに迷惑 今年はやめておく

一方、東京の大学に通っている男性(22)は帰省をやめた。「東京の感染者数が減る様子がまったくないので、今回はやめておこうと。もし自分が感染しているとしたら、家族や周りに迷惑がかかってしまう」

就職先も内定し、正月は実家で英気を養うつもりだったが、「実家のペットと戯れられないのが一番さみしいですね」とため息を漏らす。

東京のスーパーでアルバイトをしているが、マスクをしていない人を見かけるようになってきたという。「さすがに駅周辺や町の中でマスクをしていない人はいないけれど、スーパーでは『少しの買い物程度なら』という感覚の人もいるんだと思う」と言い、危機感を持っている。

2年前に沖縄県に移住し、ホテルの支配人を務める男性(35)は、雨が多い12―1月に連休を取り、帰省するのを楽しみにしていた。「地元に帰れるチャンスだったけれど仕方ない」と寂しそうに語る。元教員で、教え子が来春に卒業を控えており、「会って一声掛けたかった。次に帰れるのは再来年の正月になりそう。それもコロナ次第だけど」と複雑な胸の内を語った。

◆PCR「条件」 息子に費用送金

受け入れる側の親はどうか。

30日から息子(32)が帰省する予定の男性(67)は、自費のPCR検査を受けるよう息子に勧め、検査費用にと数万円を送金した。「親バカと言われるかもしれないが、年に1度の機会。緊急事態宣言のさなか、祖母が亡くなったが、息子は葬儀に呼ばなかった。まだ線香もあげられていないし、年末くらいは」と話す。

息子も感染者が少ない丹波に早く帰省したい意向だったが、PCRを受けることを「条件」にした。「もちろん、自分たちが感染することも怖いけれど、一番は近所の人に説明するため。顔を合わせたときに、『検査して陰性だった』と言えば安心して『おかえり』と言ってくれると思う。そのための金なら仕方ない」と言い、「東京の一部では簡単に、安くPCRを受けられる場所もできたらしい。国などはもっと早くこういう体制をつくるべきではないか」と求めた。

◆「こんな時やしな」 プレゼントは送る

一方、娘(40)の家族が帰省をやめたという女性(72)は、「孫たちに会うのが楽しみだったけれど、娘も私も『こんな時やしな』でまとまった。代わりと言ってはなんだけれど、食料品や孫たちへのプレゼントを段ボールに入れて送るつもり。早くコロナが終息して、いつも通りの年末を迎えられるようになることを祈るだけ」と話している。

愛知県に長女、千葉県に長男がいる男性(66)も「感染者が多い地域。子どもたちの方が気を遣って帰らないと思う」と話す。孫とは何カ月も会えておらず、「長男のところは3月に生まれたばかり。まだ一度しか会えていないのに」と肩を落とし、おもちゃを郵送したり、メッセージアプリで孫の写真を送ってもらうなどして“交流”していたが、今回は会えそうにないという。「今年は仕方ないですね」と寂しそうに語った。

関連記事