「小人が見える」レビー小体型認知症 否定せずに受け止めて 周囲の理解で混乱少なく【認知症とおつきあい】(14)

2021.05.06
地域

イメージ

アルツハイマー型認知症の妄想は「お金を盗られた」「服を持って帰った」など、事実かもしれないと、家族に混乱させてしまうことがある。記憶障害のために、物をどこに置いたかわからなくなり、それを想像力で補おうとすることから生まれる妄想である。

ところが、レビー小体型認知症の人の幻視は視覚的、感覚的に実際はそこにいない人や物がいる(在る)ようにはっきりと知覚される。床の小さなごみや壁の模様、天井の染みが虫に見えたり、そこに見えている人に話しかけたりする。

母がテーブルに湯のみや菓子を並べていたので「誰か来るの?」と尋ねたところ、「かわいい子どもが大勢来てね、お茶を出してあげたのよ」と答えたという話を聞いた。家族が調べたところ、誰も来客はなかったらしいが、本人にとってはリアルな体験だったようだ。

また、ある女性は「小人が電信柱の上に立っている」と訴えた。現実にはあり得ない話だが、診察室では彼女の見えるという訴えを誰も否定しない。ただ、私たちには見えないということを伝える。脳の視覚の中枢の病気のために、他の人には見えないものが見えるということをゆっくり伝えていく。

医師とのやり取りの中で小人が悪さをしないこと、恐怖を与えていないことを確認して、自分の訴えが受け止められていることに安心した表情を見せる。女性の家族は話を聞いて否定せず、受け止められていたようで、家族への不信感を訴えることはなかった。

ある日、私の耳元で彼女が言った。「私はやっぱり小人が見えるの、でも他の人には言わないようにしている。息子が『他の人には言わない方がいいよ。わかってもらえないと辛いからね』って言うの」と。私たちの前では大丈夫だよ、と受け止めてくれた家族への信頼感が伝わってきた。

幻視を消すことは難しいけれど、家族や周囲の人が否定せず、受け止めて対応することで、本人も家族も混乱が少なくなった。

寺本秀代(てらもと・ひでよ) 精神保健福祉士、兵庫県丹波篠山市もの忘れ相談センター嘱託職員。丹波認知症疾患医療センターに約20年間勤務。同センターでは2000人以上から相談を受けてきた。

関連記事