「乾布摩擦」やったことある? 兵庫・丹波では学校園での実施ゼロ 教諭ら「全員裸ありえない」

2020.02.08
ニュース丹波市丹波篠山市地域地域

1980年ごろに丹波篠山市内の小学校で撮影された乾布摩擦の様子

暖冬といっても冬は冬。風呂上がりの寒さは身に染みる。タオルで体をふきながら、ふと思った。「そういえば、小さいころ、乾布摩擦ってあったなぁ。今もやっているのかなぁ」。取材すると、兵庫県の丹波地域では現在、乾布摩擦を行っている小学校や幼稚園、保育園はゼロ。数年前まで取り組んでいた保育園があったが、多くが30年ほど前に姿を消していた。記者が幼いころは、「心身共に鍛えられる」と言われていたが、現役の教諭からは、「効果はともかく、子どもたちを裸にさせるなんて、今はありえない」という声が上がった。学校園の乾布摩擦を巡る現状を探った。

 

「今なら体調崩す」30年ほど前に姿消す?

学校現場で導入された時期は取材では明らかにならなかったが、丹波篠山市の80歳代の女性によると、少なくとも太平洋戦争直前の小学校では行われており、「みんなで運動場に出て、裸になってやったのを覚えている。自分は幼かったが、年上のお姉さんもやっていたかは覚えていない」という。その後、1960年代から昭和の終わりにかけても、「やったことがある」という証言が出てくる。

同市内のある小学校では80年度の卒業アルバムに「4年生から始まった」という言葉とともに、男女ともに上半身裸で取り組む写真が載っている。

50歳代の男性によると、「自分が小学生だった時に始まった」と言い、別の60歳代男性は、「あのころはぜん息など公害が話題になっていた。虚弱体質の子どもが多いとも言われていたので、体を強くするために取り組んでいたのでは」と推測する。

同市で集めた情報の中で最後に確認できたのは平成元年(1989)。各校、また教師によっても記憶にばらつきがあるが、このころを境に姿を消したとみられる。

いずれの学校でも取りやめた時期や理由は判然とせず、同市教育委員会も、「確かな資料がなく、よく分からないことが多い」とし、「一時的に流行したものではないか」と話す。

一方、現役の教諭からは、「今は低学年でも別室で着替えさせるのに、全員を裸で集めるなんて論外」「近年、アトピーなどの皮膚炎の子どもが増えており、余計に悪化させる」「空調が整ったり、厚着になっており、子どもたちは寒さに慣れていない。もし今やれば、体調を崩す子が出る」と社会的な事情も踏まえた否定的な声が相次いだ。

 

13年度まで実施の保育園も 「不審者情報もあるし」

戦前の小学校で撮影されと思われる乾布摩擦の様子

丹波市内でも現在は取り組んでいないが、幼稚園と統合し、認定こども園になる前の保育園の数園では最近まで行っており、ある園では2013年度まで取り組んでいた。

保育園の元園長によると、「健康への意識づけという意味で行っていた」と振り返る。うち1園は年中、室内で実施しており、お昼寝の着替えの時間を利用し、タオルで体をこすって温めていたという。ほかの園も比較的最近まで行っており、秋―冬にかけて室内で取り組んでいた。元園長は、「皮膚をこすって体温を上げることに重点を置いていた」という。

こども園への統合時、乾布摩擦を引き継ぐかについては議題に上がらなかったと言い、「生活発表会や運動会、ラジオ体操などを別にすると、全園児で何かに取り組む機会が減った。一人ひとりの主体性を伸ばす時間にあてるのが昨今の風潮」と語る。

当時を振り返った元園長は、衛生面でも課題があったとし、「かつては自分をこすったタオルで、他の園児の背中をこすったりもしていた。現在の園では、手洗い時にペーパータオルを使用するなど衛生面にかなり気を配っている」と語る。

また、旧保育園時代には、使用するタオルを各家庭が用意していたと言い、「園児が持ちやすいよう、タオルが細くなるように折って縫ってもらっていた。ミシンがない家庭も増え、準備が大変だったと思う」と語り、保護者の負担を軽減させる意味でも、今後も取り組む予定はないという。

かつて取り組んでいた別の園長は、「今は『虐待』と言われかねない」とまゆをひそめ、「不審者情報もあるので、裸にさせるのはちょっと」と抵抗を感じているという。

 

全身に刺激伝える 気持ちが前向きに

教育現場ではさまざまな事情から取り組まれなくなったが、近年、手軽な健康法として見直される動きも出ている。個人で裸での乾布摩擦に取り組む人もいれば、服の上から行う人もいる。

里皮フ科クリニック(丹波市)の里博文さんは、「皮膚を表面から刺激することで、皮膚にある触覚、圧覚を感じるセンサーを通じ、複雑な神経回路を介して全身へ刺激が伝わる。どの程度効果があるのか定かではないが、意味はあると思う」と言い、「乾布摩擦をする意味は自ら『風邪などにかからないようにする』という意気込みでもある。気持ちがポジティブになることで、自己免疫が上がるという作用(専門的にはプラセボ効果)があるでしょう。『病は気から』です」と話す。

乾布摩擦 乾いた布で肌をこする民間療法。冬に行われることが多かったため、「寒風摩擦」と誤記されることもある。肌をこすり、血液の流れを良くすることで、体温が上昇する可能性があり、自律神経のバランスが整い、冷え性や肩こり、便秘の改善などが期待できるとされる。また、不眠や抑うつの改善、免疫強化に役立つという研究報告もある。一方、注意も必要で、摩擦の程度や部位によっては、皮膚の炎症や血管障害などが起こることがあるとされる。

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