2年余り前、デトロイト郊外のヘンリー・フォード博物館を訪ねた。大学のキャンパスのようにきれいな敷地。広々とした館内に、草創期以来のおびただしい数の自動車が並んでいた。▼大型車ばかりの中に埋もれるように、米国進出第1号となった日本のホンダ車がちょこんと座っていた。80年代初めのこの小さな車の後には、新たな展示品の追加はほとんどなく、隣のコーナーには何故か、見上げるように巨大な蒸気機関車。▼館の隣は20世紀初頭、人々がアメリカン・ドリームに燃えていた頃の工場や街並みを再現したテーマ・パーク。ここもSLが周回するほどの広さだが、館内同様に客はまばら。「さすがフォードの余裕」と思わせた。▼米国の自動車ビッグ3がそろって倒産の危機に瀕している。大型車へのこだわりを捨てきれず、日本メーカーが低燃費のハイブリッド技術開発に注力し、花開かせるのに気付いた時は遅かった。日本車など、米国市場にちん入する存在としか見えていなかったのだろう。▼「労使関係を含め、経営の基本部分を放ったままでは、合併や政府の救済も解決策にはなるまい」というのが、おおかたの見方。米国産業の象徴はどうなるのか。あの貴重な博物館の前途は。とまれ、「大きいことが善」というモデルが崩れたことは間違いない。 (E)