映画「男はつらいよ」で、大学生になった満男が、母親のさくらと言い争う場面がある。だらしない生活ぶりを責めるさくらに、満男が言い返す場面だ。親と同居し、親の世話を受けてぬくぬくと暮らしている今の環境から抜け出したいと満男が息巻くのだ。▼ベッドで目を覚ますと、コーヒーの匂いが鼻をくすぐる。食卓につくと、湯気を立てた目玉焼きが用意され、イチゴジャムの蓋も開いている。こんな暮らしはもう嫌だ。「俺、もうガキじゃないんだからな」。満男は、家を出てアパート暮らしがしたいと告げる。▼自分の力で旅立とうともがく満男。そんな満男の背中を、寅さんがどんと押す。「行け、青年!」。明日を開く若者のみずみずしい姿に、寅さんはエールをおくる。▼若者には未来がある。可能性もある。だからこそ「行け、青年」であり、孔子も「後生畏(おそ)るべし」と言った。後進の青年は恐るべきだと、若い世代に期待をかけた孔子だが、ちゃんと釘もさしている。「40、50歳になっても名声が聞こえてこないようなら、恐れるに足りない」と。▼可能性に満ちあふれていても、うかうかしていたら、しぼんでしまう。だから、日々励まなければいけない。この戒めを、今まさに高校を巣立った若者に贈りたい。馬齢を重ね、50歳になった反省を込めて。 (Y)