4月の篠山・春日能で大槻文蔵が弁慶を演じた「安宅」があまりにすばらしかったので、連休の一日、西宮の県立芸術文化センターでの再演を、また観に行った。今度は「歌舞伎とのリレーション」という第2部があり、「勧進帳」の弁慶役、片岡仁左衛門が文蔵と対談した。▼山伏に身をやつして奥州に落ち延びる義経、弁慶らの一行が、安宅の関で関守の富樫に見とがめられるという有名な段。10人以上が登場し、いずれも直面(ひためん=素顔で出演)、動きもかなりあって、能では異色の演目だ。江戸期に歌舞伎がこれを「勧進帳」として採り入れた。▼「恥ずかしながら、安宅を生で観たのは初めて」という仁左衛門が、「弁慶が勧進帳を読む直前、鼓の音がぴたりと止んで、どきどきしているだろう胸のうちが、実にリアルに伝わる」と話したのには、さすがと思った。▼「伴の山伏が歌舞伎は4人とシンプルなのに対して、能では9人と多いのは何故?」という司会者の質問に、文蔵は「能は仕手集中主義。少ないと1人ずつが目立ってよくない」と答えた。さらに「直面と言っても面なので、表情は作れない。しかし、かと言って…」と役の難しさを訴えた。▼とまれ、弁慶が滑るように舞う「安宅」は、派手な立ち居振舞の「勧進帳」とはまた違った魅力。堪能させられた。(E)