大人は子どもに、社会の中でどう生きるべきかを説教する。しかし、子どもにとって「そんなことはどうでもいいことなのだ」と、哲学者の池田晶子さんは言う。「(子どもが)知りたいのは、『どう生きるか』ではなく『生きているとはどういうことなのか』である」。▼池田さんは、話題になった『14歳からの哲学』の著者。本のタイトルにもなった14歳の少年少女たちの多くが、明日1日からトライやるを体験する。トライやるでは、働くことを学ぶが、働くことの意味を探ることで、生きるとは何かを考えるヒントがつかめると思う。▼30歳代半ばのホームレスの男性の話だ。ゴミ箱から週刊誌などを拾って売る生活を過ごしていたが、市役所から1カ月のうちの何日か、道路の清掃をする仕事をもらえた。その仕事で男性は、涙がこみ上げる体験をした。作業中に、人からねぎらいの言葉をかけられたのだ。▼働くことには苦痛もあるが、喜びもある。喜びの最たるものは、先の男性のように人から認めてもらえることだ。「ありがとう」「ご苦労さま」「良かったよ」など、感謝や評価の言葉をもらうと喜びを覚える。それは、自分というものが人から認知された喜びに他ならない。▼ホームレスの男性の涙には、働くことの意味、さらには生きることの正体がある。 (Y)