専用のカードを持たなければ、自動販売機でタバコを買えないようになって1年になる。愛煙家の私だが、カードは持っていない。といっても不自由を感じることはない。自販機で買えなくても店で買える。代替がきくからだ。この代替。タバコの購入ならまだしも、人間までもが代替可能となると、考え物だ。▼「派遣切り」が社会問題化したころ、1995年に日経連(当時)が出した報告書「新時代の日本的経営」が改めてクローズアップされた。その提言内容は、働く人を「長期蓄積能力活用型」「高度専門能力活用型」「雇用柔軟型」の3つに分けるというものだ。▼作家で、反貧困ネットワーク副代表でもある雨宮処凛(かりん)さんに言わせると、雇用柔軟型とは「使い捨ての激安労働力」であり、この報告書以降、「多くの若者は見捨てられる形になった」という。▼使い捨てとは、いつでも取り替えができるということであり、労働の場面においては代替可能が進んでいることを示している。自分という存在のかけがえのなさを、働く中で見出せないとすれば余りにさびしい。「自分は見捨てられた存在」という疎外感にもつながる。▼派遣切りを生み出した景気は、「下げ止まり」の兆しを見せ始めたという。しかし、労働の代替可能の進行は食い止められるだろうか。(Y)