県公館で10日、 地域医療連携推進事業に関する協定書調印式があり、 井戸敏三県知事と野上智行神戸大学学長が協定書にサインした。 同大大学院医学研究科と同大医学部附属病院と県は、 4月から人事交流を始める。 県と大学が地域医療の確保をはかるために、 協働する第一歩で、 県立柏原病院で第1弾の事業が展開される。
協定期間は3年。県が大学に委託して実施する。 大学は、 教員を確保して、 同病院など県内病院に対し診療支援を行うことを通じ、 地域医療のあり方に関する研究を行う。
県は、 柏原病院の医療機能の回復と地域医療のあり方に関する知識を得て、 医療政策の参考にすることを、 大学は、 県と共同で医療行政の研究をし、 臨床医学だけでなく、 医師と医療スタッフとの協働や医療システムに関する幅広い分野を包括する講座に関する構想の推進をはかり、 地域医療へのいっそうの貢献を行うことを事業目的とする。
調印式で井戸知事は、 「地域医療の振興と確保の観点から取り組んでみたいと決断して頂いた。 モデルとして柏原病院から始める。 神戸大との取り決めを地域医療再建のためのスタートにさせて頂く」 とあいさつ。 野上学長は、 「大学だけ、 附属病院だけがんばっても地域医療の充実はできない環境がある。 県と連携し、 医師、 コメディカルの育成、 それを支えるあらゆるシステムをみんなで構築していく」 と述べた。
式には、 県、 大学双方の首脳が顔を並べた。 神戸大から高井義美医学研究科長、 藤澤正人・平田健一両附属病院副院長らが出席。 県からは、 齋藤富雄副知事、 黒田進病院事業管理者、 細川裕平健康福祉部長、 酒井國安柏原病院長らが出席した。
昨年4月に高井科長が、 大学医学部と県と定期的に懇談の場を持つよう提案。 医学部首脳と齋藤副知事らが昨年12月から2月にかけ4度懇談した。 県の喫緊の課題である丹波地域の医療確保、 県立柏原病院の医師不足問題について重点的に議論する中で、 大学が、 柏原病院をはじめとする県内の病院への診療支援を行う 「地域医療連携推進プロジェクト」 を県と共同で実施できないか提案。 協議の結果、 同事業実施で合意した。
【解説】
県と神戸大が結んだ協定は、 互いの問題点を乗り越えて行こうとする前向きなもの。 県も神戸大も協定締結で、 従来の枠組みから大きく踏み出した。
県も大学も柏原病院を何とかしたい思いはあった。 が、 双方に問題があり、 互いに不満を感じる部分もあった。 県は、 県立12病院を運営する病院局と医療行政をつかさどる健康生活部が 「守備範囲の違い」 を理由に一枚岩になれず、 大学は関連病院への医師派遣の人事をおのおのの教授が行い、 大学としての一体感がなかった。 大学からの提案で、 高井義美医学研究科長ら医学部中枢と、 齋藤富雄副知事ら県中枢が懇談を重ねる中で、 地域医療再生へ互いに知恵を出し合い、 汗をかくことに昇華させ、 事業として結実した。
地域の医療機関とのネットワークをどう構築し、 人口規模に合わせた医療の最適化をどう実現するか、 また、 いなかの病院で若手の医師が技術を学べる環境をいかに作り上げるか―の2点は、 県、 神戸大のみならず、 日本中の共通課題でもある。
県も大学もこう言った。 「柏原病院の延命ではない。 丹波医療圏の再生。 今日がスタートだ」。 医療再生パズルを完成させようと、 動き出した県と大学。 少ない人数で病院を支えてきた現場医師の意向も尊重し、 事業を推進してほしい。 地元も、 この動きを下支えしたい。 (足立智和)