兵庫県丹波市市島町の荻野早苗さん(73)は、毎年3月になると、日本画家として活躍した山本茂斗萌さんが母・秀乃さん(98)へのプレゼントとして贈った、桃の節句の掛け軸を飾るのを楽しみにしている。今年も床の間に掛けて毎日眺めており、「目とおちょぼ口がほほ笑んでいるようで、優しい顔のおひな様たち。見るたびほっこりし、春の温もりを感じます」と話している。
荻野さん一家が柏原に住んでいた頃、祖父・恵之輔さんと山本さんが親しくしており、掛け軸が贈られたという。祖母のきみさん、母の秀乃さん、早苗さんと、母子3代で大切に飾り続けている。
山本さんは東京生まれで、東京美術学校(現・東京藝術大学)日本画科本科を次席で卒業。1928年(昭和3)から旧制兵庫県立柏原中学校に勤務しており、掛け軸はこの頃、プレゼントされた。36年(昭和11)に日展で初入選し、日本画家として有名になる前の作品で、本名の「求」のサインが書かれている。
絹地に描かれた朱色の着物は今も色鮮やか。荻野さんは「田舎は旧暦の名残りで4月3日頃までひな人形を飾る風習がありますが、長く見ていたいので、4月末まで飾っています」とにっこり。