大手酒造メーカー「黄桜」(本社・京都市伏見区)が、2018年から兵庫県丹波篠山市今田町本荘の丹波工場で、大麦麦芽を原料にしたモルトウイスキーを製造している。緑に囲まれ、空気が澄んだ標高約300メートルの高地にあり、年間を通じて30度を超える寒暖差がある盆地特有の気候は、味わい深いウイスキーを造る上で理想的な環境という。昨年から販売を始めたところ、甘く、爽やかな風味が好評を呼んでいる。
同県丹波地域でウイスキー製造を行っているのは黄桜のみ。1995年に始めたクラフトビール製造の技術と経験を生かした新たな取り組みとして、ウイスキー造りをスタート。同工場内の原材料貯蔵庫を改装し、「丹波蒸溜所」を立ち上げた。そばにある空き倉庫は、原酒を寝かせる熟成庫とした。
本社のクラフトビール工場で仕込んだ麦汁を、丹波工場へ輸送。蒸留所で酵母を加えてタンクで発酵させ、銅製の釜「ポットスチル」でもろみの蒸留を2回繰り返し、樽詰めを行う。年間約8万リットルが生産できる。
当初は、銅板をつるした焼酎用のステンレス蒸留器を使っていた。2021年、本場のスコットランドの製法に近づけるため、同国のフォーサイス社製のポットスチルを導入。熱伝導に優れ、雑味や硫黄化合物を取り除く効果がある。
また、清酒やビール造りなどにも使われる発酵、培養タンクがあり、豊富な種類の酵母菌の製造が可能。酵母は風味の深さにつながるという。
熟成樽は、バーボンやシェリー酒の熟成に使われていたものや、ミズナラ材を使ったものなど、製造年や使用年数、素材もさまざま。それぞれが異なる味や香りを生む。
熟成庫内で、周囲の山々の湿潤な空気を吸わせながら、最低3年寝かせる。熟成庫内には、約500個の樽が並ぶ。冷暖房機器はなく、四季の空気をそのまま生かす。東山順一工場長(58)は「夏は膨張し、冬は収縮する。樽の中で『呼吸』を繰り返すことで熟成が促されて、よりこくと芯のある味わいになる」と話す。
黄桜の担当者は「丹波蒸溜所は”丹波の森”と呼ばれる深い緑に囲まれている。朝方には、周りがすっぽりと濃い霧に包まれることも珍しくない。本場のスコットランドで歴史ある蒸留所が密接するハイランド地方に似た環境もウイスキー造りに適している」と語る。
蒸留担当の従業員、庄司恵祐さん(28)は「アルコール度数や量などの数値を正確に計算している。3年後が楽しみ」と話す。
昨年4月に初めて発売したシングルモルトウイスキー「丹波 1st edition」は、マンゴー、パパイヤなどのフルーツやバニラのような爽やかで甘い香りと優しい口当たりが特長。丹波蒸溜所とスコットランドの原酒を組み合わせたブレンデッドモルトウイスキー「Sakura Chronos(サクラクロノス)」などもある。
「世界が憧れるウイスキーを造る」をモットーに掲げる。「現状は国内だけだが、いずれは海外へ出荷したい。酵母や樽、貯蔵方法、蒸留方法などの要素で少しずつ多様性を持たせたい」と展望を描いている。