子授けの御利益があるとされ、自宅に持ち帰って願い通りに子を授かれば元の場所に戻すという“暗黙のルール”がある兵庫県丹波篠山市川原の「子授け地蔵」。2021年4月、数十年ぶりに姿を消し、子宝を望む人のもとへ“出張”に出ていたが、今月7日、地元住民が元の祠に戻っていることに気づいた。約3年ぶりの“帰宅”と、誰かの子授けの願いがかなったかもしれないことに住民らは大喜び。「ほっこりした。もし赤ちゃんができたのなら、めでたいことや」と小さな集落の一大ニュースになっている。
地蔵は赤い前掛けなどが施された高さ40センチほどで、地蔵と名がつくものの顔などはなく、見た目は普通の石。この地蔵のことが記された史料はなく、住民の間で脈々と「御利益がある」と伝えられてきた。
一方、御利益が本当にあるのかどうかは不明で、▽持ち帰るときは誰にも言わなくていい▽「誰だったのか」などと詮索しない―という習わしが伝わり、持ち帰った結果がどうだったのかという話すらないからだという。
2020年11月、コロナ禍で「持ち帰り(テイクアウト)」が話題になっていたことに合わせて本紙が「持ち帰りOK地蔵」と報じたところ、翌春に姿を消した。当時、住民らは、「そのうち帰ってこられるはず。どこかで赤ちゃんが生まれていればいい」と話していたが、2年が過ぎても戻らず、“返却期限”はないものの「あまりに長い間おられないのは寂しい」と祠の横に看板を立て、「一度お返し下さい。お願いします」と呼びかけた。
この呼びかけを報じたところ、丹波新聞社に匿名の女性から、「自分が持ち帰った。地蔵は大切にお祭りし、日々、子授けを願っている。もうしばらく待ってほしい」と連絡があった。この連絡に住民らは安堵。赤ちゃんの誕生に期待を寄せつつ気長に帰宅を待っていた。
3年と1カ月が過ぎ、近くで暮らす森田忠さん(72)が祠に戻った地蔵に気づいた。地蔵と共にたくさんのさい銭や菓子、赤ちゃんのよだれ掛け、赤ちゃんを運ぶとされるコウノトリ関連のグッズなどが供えられていた。5日に見た際は戻っていなかったと言い、「お供え物が少し濡れていたので、雨が降った6日に戻られたのかな」と推測する。
念願がかなったかどうかが分かる手紙などはなく、御利益は今回も不明。ただ、祠の横を通るたびに戻っているか気にしていた住民らは、帰宅を聞いて喜びが広がっており、「うれしくてビール飲んだ」という人もいるほどだった。
森田さんは、「他にも持ち帰りたい人がいたかもしれないので、お返ししてもらえて良かった」と言い、「赤ちゃんができたのなら、この報道を通して『良かったね。おめでとう』と言いたい。もしもまだだったら、また持って帰られたら」とほほ笑む。
帰宅に気づいた前日には森田さんにも孫が誕生し、さらには集落に子ども4人を含めた家族の移住が新たに決まり、良いことづくしになっている。
また姿を消す可能性もあるが、「それがこのお地蔵さんの仕事。盗難でなければいいし、仏像のように彫刻があるわけでもないので売れへんと思う」と朗らかに笑った。
お供え物の菓子は近く移住者を歓迎する交流会で提供するという。