「数十秒ごとに状況悪く」 自宅全焼の男性が振り返る 自ら近所に周知、スマホで無線放送 住民と放水「訓練のおかげ」

2026.02.14
丹波市地域地域

父と2人、近所の人の力も借り消火にあたったものの全焼した住宅=兵庫県丹波市青垣町中佐治で

1月30日深夜の火事で兵庫県丹波市青垣町中佐治の自宅が全焼した自営業の男性(52)が、「経験が役に立てば」と取材に応じた。男性は、自治会内で火災が生じた際にいち早く住民に周知できるようにと防災行政無線の電話番号をスマートフォンに登録、自治会に依頼し、消火訓練を開いてもらうなど「万が一の火災」への意識を強く持っていた。「助ける側になるんだと備えていた自分が、被災するとは思ってもいなかった。やるべきことはやった。火の勢いが強かった。数十秒ごとに状況が悪くなっていった」と淡々と話した。

木造2階建て住宅の2階自室で仕事中、屋根から雪が落ちる音に異変を感じた。凍てつく寒さなのになぜだろうと外に出ると、1階のまきボイラー付近の壁から煙と小さな炎が見えた。「消せる」と散水用ホースで消火を試みようとしたが、ホースが凍結していて水が出なかった。

停電で真っ暗な中、自室にスマートフォンを取りに戻り、2階で寝ていた父を起こして逃げ出した。自治会長の電話を鳴らし(午前零時22分)、続けて119番通報(同23分)。住所と氏名、2人とも無事だと告げても、さらに質問が続くのにいら立ち「そんなんええからはよ来て」と怒鳴ると「もう向かっています」と返ってきた。通報中に火が大きくなり、燃えている屋内に非常用持ち出し袋を取りに、息を止めて戻った。

階段を上る時は炎で見えた階段が、降りる時はドライアイスの冷気のような真っ白な煙で視界ゼロ。出口まであと数歩で息が続かなくなり、煙を吸い込んだ。喉に軽いやけどを負った。後に、頭、首筋、手の甲の軽いやけどに気づいた。なお消そうと、台所でバケツに水をくみ、何杯かかけた。消火器3本を費やしても火勢は衰えなかった。

スマートフォンに残る発災当時の発信履歴。鍵は焼け跡から見つけた。父親の車のスマートキーはプラスチック部分が溶け、メカニカルキーが露出。キー交換に高額な費用がかかりそうだという(画像の一部を加工)

防災行政無線に電話(同28分と30分)をし、自治会内に火災を知らせた。異変に気づいてから、ここまでわずか10分ほど。火の勢いに「消せる」の思いは消えた。

凍った消火栓から放水しようとホースをつないでいると、消防団や近所の人が助けてくれた。2024年に近所の民家が焼けた教訓から、同自治会がホースを更新し、本数を増やしていたことで家まで水が届いた。神戸市からのIターン者。消火栓を使えたのは、男性の「訓練をしてほしい」との要望を聞いた自治会が、放水訓練を開いたからだった。

近所の人が別の消火栓から放水し、倉庫と車に水をかけ続け、類焼を防いでくれた。消防本部も合流。3時間後の午前3時半ごろ、鎮火した。

男性は、「スマホに防災行政無線の電話番号を登録しておくのは有効。訓練のおかげで消火栓が使えた」と、火災発生後の対応は、やれることはやった思いでいる。ただ、火は消えなかった。

「異変に気づいた時点で1階の天井、2階の床に火が相当回っていて初期消火ができる状況でなかったんだろう。見えないので分からなかった。火を消そうとした1分、2分を、ノートパソコンを持ち出すのに使えば良かった」と悔やむ。男性はフリーのIT技術者。商売道具と重要なデータの一部を失った。

満州から命からがら引き揚げた祖母が「いつでも逃げられるように」と貴重品を枕元に置いていたのを見て育った。「近所で火災があった後、祖母を思い出し、枕元に貴重品を入れたかばんを置くのを習慣化したことで、免許証やマイナンバーカード、クレジットカードなどが入った財布や車の鍵などを持ち出せた」のは不幸中の幸いだ。

市営住宅に身を寄せている。家電は、市社会福祉協議会が貸与、靴や衣類は、知人や近所の人が分けてくれた。「ここまで助けてもらえるのか」と、行政の支援、周囲の親切に感謝する。

火災ごみの片付けに直面している。市クリーンセンターに無料で搬入できるのは2カ月間。「掘り出したい物がある。もう少し猶予があれば助かる」と話した。

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