柏原の炭野誠さんが発売した幽霊画の絵葉書セットを購入。収集した絵の中から厳選したそうで、結構売れているらしい。最も目をひいたのは、黒髪も豊かなすらりとした美人。三遊亭円朝の落語に登場し、歌舞伎にもなった「怪談牡丹灯篭」のお露。新三郎に恋い焦がれ、死後も夜な夜な彼の家に通い詰めたという。▼非業の死をとげた女が「恨めしや」と現れるのが幽霊の一般的なイメージだが、必ずしもそうばかりではない。江戸時代でも「雨月物語」には男の幽霊がたくさん出てくるし、現代になるとさらに趣が違う。▼映画「異人たちとの夏」の片岡鶴太郎と秋吉久美子は息子(風間杜夫)の心を安らげてくれる父母の幽霊。高倉健の「ぽっぽや」では、赤ん坊で死んだ娘の幽霊が成長しながら登場。高校生になった広末涼子は大変可愛かった。▼村上春樹の小説「海辺のカフカ」には、異界との間をくぐり抜ける人物が次々に出てくる。最近作「1Q84」も主人公たちは月が2つある世界に入り込んだ。春樹の多くの作品が幽霊を扱い、彼らの大抵が読者の心を捉える。▼「この世と霊魂の世界が近い感覚は近代以前の日本には普通にあった」(小山鉄郎「村上春樹を読みつくす」)。春樹がノーベル賞を取ったら、こうした日本人のDNAがより一層世界に伝わるだろう。(E)