加藤登紀子さんがブータンの首都、ティンプーの広場でコンサートを開くのを聴きに行った話を、もう1回。ブータンには信号が一つもない。ただ1カ所、ティンプーの目抜き通りの交差点で、お巡りさんが手信号で交通整理しているだけ。車は結構通っているが、さほど事故は起きないらしい。▼パロの国際空港からティンプーまで40キロほどの道路は一番の幹線だが、くねくね曲がった簡易舗装の山道。バスは土ぼこりをたてながら2時間近くかかった。トンネルも国内に1カ所もない。▼ブータン人は、時間をあまり気にしないのだろう。人も動物も前世から今世、来世へと生まれ変わり続けることを信じている。悠久の時間の中では、1、2時間の差などたいしたことはないわけだ。道端で気持ちよさそうに寝そべっている犬達も、前世は人だったかも知れず、決して粗末には扱われない。予防注射もちゃんとしているとか。▼世界遺産に十分なれるすばらしい寺や城があちこちにあるが、「指定されても、長い目ではマイナスが多い」と、政府は応じない。歴史と伝統を守り、「国民総幸福量」を重んじる同国の矜持(きょうじ)と思われる。▼会場は、地元の中高生らも登場してブータン語の歌詞が舞うにつれて盛り上がり、登紀子さんは里帰りしたかのように、軽やかに、輝いて見えた。(E)