「かしこまって鑑賞するだけが能じゃねえ。能楽はその昔、田植えの際に豊作を祈願して演じられた。田植え初めて、能初めての人もノープロブレム。能書きは垂れないので能天気に」との触れ込みにひかれ、「農と能コラボ」イベントに参加。▼鼓、笛などのカルテットが演じた「三番叟 揉みの段」は元々、狂言が演じる田植えの所作の囃子とか。春日町下三井庄の田んぼのそばで、澄みきったその音(ね)は周りの森にこだまして響いた。▼そう、能のルーツのひとつは農。田植えの際の田楽だ。平安時代に始まり、神をお招きしての捧げものであると同時に庶民にはこの上ない娯楽だった。「今年も水が十分ありますよう、災害に遭いませんように」との祈りの芸である。▼演奏に先立つ「お田植え神事」で、「荒稲(あらしね=籾付きの米)」を田にまいた宮司さんは「これが昨秋取れたから、今年もまた田植えが出来るんです」と話した。減反を強いられる昨今、農家のいかほどがそう感じているだろうか。▼早苗が水面に揺れる季節は、農村が一番美しい。三井庄と言えば、我がルーツの地。何度も来ているはずなのに、森がこのようになだらかで優しいことに初めて気づいた。よくぞ丹波に生まれけり。それにつけても、日本人ならばもう少し米を食うべし、と改めて自戒。(E)