「父よ!言いたいことがあったら、はっきり言え。母よ!言いたいことを、そのまま言うなよ」。高校生が書いた1行詩としてよく知られた作品だ。母親はさておき、日本の父親というのは自分の思いや考えを子どもに示さないものだと、臨床心理学者の河合隼雄氏も指摘している。▼「お父さん、あなたは一体、どう思って生きているのか」。子どもにそう問いかけられたとき、日本の父親はものすごく弱い。世間一般の父親はどう考えているのかを気にし、「私はこう思う」という態度がとれない(『日本人とアイデンティティ』)。作家村上龍氏の父親もそのタイプだと言えるだろうか。▼高校時代、非行少年の仲間入りをし、郷里を捨て東京に去った村上氏。1週間後、父親からハガキが届いた。ハガキには説教じみた言葉はなく、家族や近所のことなどが書かれていた。▼1週間後、またもやハガキが届いた。さらに1週間後と続き、実に7年間にわたった。村上氏はただの一度も返事を出さなかったのに、父親は途切れることなく出し続けた。▼故郷や家の様子などを伝える文面で、自分の考えを言葉にしたハガキではないのだが、作家の城山三郎氏は「その根気、そのやさしさ。まことの父親ならでは、と思う」とたたえている。父親のありようは奥が深い。きょうは「父の日」。(Y)