「私小説的古市の歴史」

2007.01.29
未―コラム記者ノート

 篠山市古市の酒井勝彦さんがまとめた「私小説的 古市の歴史」に、面白いくだりがある。むらの美味として最近まで存在した、「横屋のうなぎ」の発祥を記した部分だ。 「(前略)『出人帳』(他領へ嫁いでいった者等が記載されている帳面)の中に、寛政2年(1790)横屋休兵衛の妹『しも』が、大阪天満のうなぎ屋安兵衛方に嫁いでいることが記載されています。(以下略)」(引用同書)。 この「しも」が天満から新鮮なうなぎと秘伝のタレを実家に伝えたことから、横屋は名店となったのでは-と同書は記す。300年後にも伝わる味が、一つの縁談によって誕生したという味わい深い物語なのだが、実はこの出人帳の文字、「うるし屋」とも読めるのである。しかし、「『うるし屋』と読めば、このロマンストーリーは成り立たない」と酒井さん。「うるし屋」とも読めることを断りつつ、あくまでも「うなぎ屋」を推している。 数年がかりで集めた資料に少々の「ロマン」を混ぜてつづっている同書。古市という集落が長い物語の舞台のように感じられ、面白く、読み応えもあった。この「私小説的」視点、歴史を楽しむコツとして面白い。(古西広祐)

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